3.新たな演奏スタイルを築いた時代


後継の指揮者については楽友会現役より提案された栗山文昭氏に決定し、1992年の第41回定期演奏会でモーツァルトの「レクイエム」を演奏しました。この曲は、1961年の第10回定期演奏会で初めて取り上げ、1967年の第16回以来およそ4年に一度の頻度で繰り返し演奏し、多くの世代が共通の想いを抱くいわば楽友会の一貫性を象徴する伝統曲といえます。

 

栗山氏との契約は2年だった為、次の指揮者をどうするかが大きな課題でしたが、楽友会現役の強い希望を受けて1994年以降も引き続き栗山氏にご指導いただくこととなりました。

 

その後、楽友会の50周年を記念する演奏会の企画が始まり、2001年に「楽友会設立50周年記念演奏会」を現役・OBOG合同で行うことが決定しました。

 

計画から6年を経た2001年3月3日、サントリーホールにて50周年記念演奏会が盛大に開催されました。楽友三田会は、草創期に演奏した記念すべきハイドンの「天地創造」より30番を岡田先生の指揮で演奏。続いて林光氏の指揮で林光作曲「日本抒情歌曲集」より、そして小林亜星氏の指揮による「青春讃歌」を演奏。岡田先生、林光氏、小林亜星氏による懐かしいトークショーも繰り広げられました。そして、最終ステージでは、黒岩英臣氏の指揮、東京交響楽団の演奏の下、現役・OBOG合わせて300名もの大合唱団によるモーツァルト「レクイエム」が会場に響いたのでした。計37回もの練習の成果があらわれた迫力ある歌声に、多くの観客から感動のメッセージをいただくことができました。

 

このころから、定期演奏会の演奏曲に変化が訪れます。それまでのメイン曲は長らくオーケストラ付きの宗教曲が続いていましたが、2004年の定期演奏会では、寺嶋陸也氏へ「水になった若者の歌」を委嘱。それが楽友会初の委嘱初演作品となり、メイン曲として演奏しました。翌年には同曲を照明や衣装を工夫し、新たな装いのシアターピースとして再演しました。

 

その後、沖縄民謡をはじめとする様々な曲を照明演出付きのシアターピースとして演奏するステージがメインとなり、楽友会が得意とするジャンルのひとつになりました。またこれを契機として「同時代に活動する作曲家とともに音楽作りをする」という新鮮な体験ができる演奏スタイルが確立していくことになります。

 

一方、千葉大・宇都宮大・山梨大と楽友会の4校によるクローバーコンサートに新たに横浜市立大を加え、マリスステラコンサートが開始されたのもこの頃です。2006年のクローバーコンサートでは楽友会がホスト校であったため、1年生ステージの指揮を今回ベースのソリストをされる小林昭裕氏(43期)が務め、好評を得ました。

 

2010年代は東日本大震災による練習停止、岡田先生のご逝去、そして24年間ご指導いただいた栗山氏の退任という大きな出来事が相次ぎました。栗山氏の退任後は、2016年に佐藤洋人氏、2017年以降は横山琢哉氏にご指導をいただいています。横山琢哉氏は、楽友会に在籍する4年間で様々なジャンルの曲目を経験できるようにしたいとの考えから「360度合唱」というテーマを掲げ、シアターピース以外にも、邦人曲、宗教曲などのジャンルもメイン曲として周期的に取り上げるスタイルをとられています。

 

また、楽友会とOBOGおよび他団と連携した動きが活発化したのもこのころです。2011年にはオール楽友ファミリーコンサートが日吉の藤原洋記念ホールにて開催され、当日は様々な趣向をこらしたグループや演奏家が舞台に登場し、音楽的な層の厚さを存分に共に楽しめる一日となりました。また2012年には楽友会有志が楽友三田会合唱団定期演奏会に出演し、2017年には現役・OBOG交歓コンサートが開催されフォーレのレクイエムなどを参加者全員で歌いました。また2018年から始まったサマーコンサートの第1回は、長い年月を経て交流を再開した慶應高校・女子高校楽友会も参加するという記念すべきイベントになりました。翌2019年には塾生のみで構成される「Kプレミアムオーケストラ」が第九を企画し、楽友会が出演しました。当時の副学生指揮者がKプレミアムオーケストラを兼団していた関係で繋ぎ役となり、その後も定期的に共演したいという意志を持つ契機になりました。後年楽友会がモーツァルト「レクイエム」の演奏を企画しますが、そのときも学生だけで演奏したいという思いと第九で共演した経験を踏まえKプレミアムオーケストラに出演を依頼することになります。